熱海の土石流で考える災害時対応 避難指示と避難勧告の違いは?

梅雨前線の影響で、神奈川県や静岡県では今月3日から4日にかけて記録的な大雨となっていて、土砂崩れや川の増水など被害が相次いでいる。3日早朝の段階で、神奈川県横浜市や静岡県東部、千葉県など、7府県の一部で警戒レベル4の避難指示が出された。

冠水や浸水で通行止めになっている道路は後を絶たず、また東海道新幹線も3日は終日運行見合わせとなった。また大きな被害が出たのは静岡県熱海市伊豆山での土石流で、20人近くの人が安否確認ができない状態となり、2人の死亡が確認されている(3日夜現在)。

土石流が発生の段階では当該地域では避難指示が出ていなかったことも指摘されており、災害時に取るべき対応などについて改めて考える機会となりそうだ。

神奈川県では川の氾濫・土砂災害

梅雨前線の活動が活発になっており、西日本から東日本は4日にかけて大雨となる所があり、厳重な警戒が必要だ。箱根町では、この2日間の雨量が700ミリ近くに達するなど、すでに平年の7月1か月分の雨が降った。

この記録的大雨の影響で、3日午前7時の段階で、神奈川県平塚市を流れる金目川で、洪水による浸水被害がすでに発生している可能性があるとして、大雨警戒レベルが最も高いレベル5の「緊急安全確保」が神奈川県から出された。

時を同じくしてツイッターなどのSNSでは金目川の映像などの投稿が相次いだが、いずれも「浸水被害が発生している可能性」「氾濫の可能性」というレベルを超えており、すでに川の水は堤防を超え、氾濫しているように見受けられた。

神奈川県内では道路の冠水も相次ぎ、午前8時過ぎには横浜横須賀道路の逗子IC入り口付近で、車2台が土砂に巻き込まれたと報じられた。この影響で、横浜横須賀道路の横須賀IC~馬堀海岸ICの上下線で通行止めとなった。

熱海の土石流で20人安否不明 人災の可能性も

出典:ライブドアニュース

また、大規模な災害となったのはお隣・静岡県の熱海市だ。海水浴や温泉などの娯楽で昔から有名な熱海市だが、この日は壮絶な光景が全国に出回ることとなった。

現場となった静岡県熱海市伊豆山地区では、2日は一日中断続的に雨が降り続き、3日未明にかけて激しくなったという。午前10時30分頃に起きたという大規模な土石流の映像はツイッターなどのSNSを中心に一気に拡散された。

映像では山の上から真っ黒な土砂交じりの水が「ザー」「ゴー」という轟音を上げながら勢いよく流れる様子が確認でき、県警によると、土石流は伊豆山港のある海岸付近まで到達したという。

映像の中には、その後土石流に流されたと思われる車が映り込んでいるものや、撮影者のいる箇所の向かいの家屋に避難できずに立ち往生している人の姿が映り込んでいるものなどもあり、非常にショッキングな光景であった。

土石流は全長2キロに渡ったとされている。発生現場から500メートルほど離れた場所の家屋では2階・3階部分まで土石流に埋まっていたと報じられている。

県や県警によると、この土石流によって家屋10棟以上が流されたといい、発生直後のニュースでは20名ほどの人が安否不明の状態となったと報じられた。その後、3日夜現在、土石流に流されたのであろう2人の女性が心肺停止の状態で伊豆山港で発見され、その後死亡が確認された。

また、これまでに4人が救助されているという。現在も救助活動が行われている。土石流が確認された熱海市伊豆山地区は、JR熱海駅の北約1・5キロにあり、伊豆山から相模湾まで険しい地形でホテルや旅館も点在している。伊豆山から相模湾の間には、東海道新幹線の線路もあり、土石流は海沿いまで達した。

土砂災害が起きた直接的な原因はこれから解明されるであろうが、識者からは「開発で山の保水力が下がったせい」という指摘が後を絶たず、天災ではなく人災だという声も多く挙がっている。

NHKアナウンサーには称賛の声も

同じく静岡県の沼津市でも、大雨の影響で沼津市-駿東郡清水町に架かる黄瀬川橋が崩れたことなどが報じられている。また、黄瀬川の流域で家屋が流されたことが報告されているほか、市内各地で冠水・浸水による道路の通行止めなどが相次いだ。

壮絶な光景が1日中テレビで流れることとなった3日だが、あるアナウンサーの対応力に称賛の声が集まっている。NHKの中山里奈アナウンサーだ。中山アナウンサーは同日、ニュースを午後1時から担当しており、神奈川県や静岡県の記録的大雨について伝えていた。

その中で、先述した熱海市の男性に生電話で取材をする場面があった。はじめに男性に「安全なところにいらっしゃいますか」と問いかけた中山アナウンサーは、「今現在は大丈夫なんですけど、できれば避難した方がいいというお勧めもいただいています」という男性からの返答で、事態の深刻さを素早く把握。

状況を詳しく確認するために、「今、避難した方がいい状況にあるということでしょうか」と再び問いかけると、男性からは「『できれば避難してください』と消防署の方たちが、先ほどこの辺りを触れて回っておりました」という返答。それを受け、

「でしたらすみません、避難してください。われわれの放送はここで大丈夫ですので、避難をなさってください。すいません、お忙しいところありがとうございました。申し訳ありません」

と上司の指示を仰ぐこともなく毅然と対応した中山アナ。時間にして、約1分ほどのやりとりであった。的確で迅速な判断に、ネットでは「対応素晴らしい」「プロフェッショナル」「初めて見る対応かも」と称賛の声が寄せられた。

災害時対応 避難指示や避難勧告の意味合いとは

自然災害はいつどこで起こるかわからず、他人事ではない。自分の住んでいる地域や通勤・通学している地域のハザードマップを把握したり、危険性を把握しておくことは非常に重要だ。

あわせて、各災害ごとに正しい逃げ方を理解しておくことも忘れてはならない。例えば今回のような土石流のケースでいえば、土石流が来る方向に背を向けて逃げると、土石流のほうが人間の走るスピードよりも遥かに速いため、追いつかれてしまう。土石流を確認した際には、その流れに対して直角に逃げることがセオリーとされている。

それと同時に、被害が発生するおそれのある地域に出される各勧告の意味合いについても整理しておきたい。まず、「避難勧告」は災害による被害が発生する恐れのある場合に発令されるもので、強制力はないが、対象地域の住民に安全な場所への避難を促すものだ。

また「避難指示」は被害の危険が切迫したときに発令されるもので、「避難勧告」より状況がさらに悪化した場合や、人的被害が出る危険性が非常に高まった場合に発令される。避難しなかったとしても罰則などはないが、避難指示が出された際にはただちに避難する必要がある。

(※日本には絶対的な強制力をもった「避難命令」の制度は存在せず、その代わりに、警戒区域への立入りに罰則がある「警戒区域指定」が該当する)

今回、熱海市で土石流が発生した際に、避難勧告よりさらに上の「避難指示」が事前に出されていなかったために、住民はじゅうぶんに準備ができていなかった可能性や、行政の責任も指摘されている。専門家いわく、今回は非常に判断が難しいケースだったという。

もともと、静岡県のハザードマップによると、土石流が確認された伊豆山地区は「土石流危険渓流」に囲まれ、急傾斜地崩壊危険箇所や地すべり危険箇所などが点在する。県から土砂災害警戒区域に指定されていた。

伊豆山のような地形では、雨のピークから数時間遅れて土石流が起きることもありうるのだというが、今回は雨が短時間に集中して降るような降り方はせず、2日くらいにわたってそこそこの強さで降り続いたために、さらに判断を難しくさせた。厳しく警戒するタイミングを計るのは特に難しい降り方だったという。

熱海市長は3日の記者会見で、あらかじめ高いレベルの避難情報を出しておけば良かったという考えはないかを問われ、「災害が起こったことを考えれば、全くないとは言えない」と述べた。

今回の大雨による被害に遭われた方には、心よりお見舞い申し上げます。