プロボクシングのWBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太が、自身のインスタグラムで投稿した「意味深な内容」が反響を呼んでいる。村田は、日本ハム在籍時に後輩に暴行をふるったことが先日発覚したプロ野球の中田翔を擁護したメッセージを発信したとして波紋を呼んでいた。
中田は、日本ハムファイターズ在籍時の今月8月11日に暴力問題で無期限の出場停止が発表されたが、読売ジャイアンツ(巨人)への無償トレードが決まると、即1軍登録で21日からプレーしている。
試合中に暴行問題で出場停止に
「4日に函館で行われたDeNAとのエキシビションマッチの開始前のことです。被害にあったのは、20代のA投手。ベンチ裏で最初はなごやかに話をしていたものの、突然、中田が激高してAの顔面を殴り、続けざまに胸付近も殴打した。ふっ飛んだAが壁に腰を強打し、予定されていたその日の登板を回避せざるを得ない状況になったといいます。それで、チーム関係者の知るところとなった」
こう語るのは球界関係者だ。もともと、A投手は中田の子分的な立ち位置だったらしいが、最近は少し距離があったようだ。今年8月4日の試合中に暴行問題が発覚し、先発出場していた中田は1打席に立ったところで交代を命じられ、球場から退場させられていた。
11日に一軍・二軍すべての試合の出場停止処分を下した日本ハムの川村浩二球団社長は、会見で「暴力はいかなる社会であれ、決して許されるものではありません。ファン、関係者の皆さまにご心配やご不快な思いをさせ、深くおわび申し上げます。申し訳ございません」と頭を下げた。
これまでもトラブル多数 監督が甘やかしたツケ?
中田翔の問題行動は今に始まったことではなかった。中田はアマチュア時代からその“ヤンチャ”ぶりが知られており、大阪桐蔭時代は「気に食わない先輩を乾燥機に叩き込んだ」と、自分でも認めている。
入団後も、騒動を起こすこともしばしばだった。ルーキーイヤーの2008年春季キャンプでは、連日の取材攻勢にストレスがたまっていたのか、宿舎の窓から持参したエアガンで報道陣を狙撃。誰にも当たらなかったのが不幸中の幸いだったものの、当時中田の面倒を見ていた球団スタッフは「手に負えない」と嘆き節だったという。
試合で活躍できないとふてくされ、今年4月には三振直後にベンチでバットを破壊。すると翌日、右目に青あざをつくってグラウンドに現れたことがあったという。栗山監督は「転んだ」と説明したものの、「夜の街でトラブルを起こしたんじゃなければいいが」と気が気でない様子だった。
ある球団OBによれば、中田が後輩を小突く、罵倒する、突き飛ばすなどはしょっちゅうだったという。中田自身は冗談のつもりでも、やられた方はどう感じていたのか-と慮る。栗山監督も中田にはかなり甘く、トラブルのたびに、報道陣に対しては「厳しく対処します」という姿勢を貫いていたものの、実際に中田本人を目の前にすると、なだめすかすことしか出来なかったという。
以前はダルビッシュ有や稲葉篤紀(あつのり)など規律に厳しい先輩がいたのでバランスが取れていたが、いずれもチームを去った。今や野手最年長で、中田に物申せる人物は監督も含めて皆無だったようだ。
巨人が中田獲得へ 背番号10
暴力問題の渦中、日本ハムから出場停止処分を受けた中田翔に救いの手を差し伸べたのは、原辰徳監督率いる読売ジャイアンツだった。巨人の大塚球団副代表は、「日本ハムから相談を受けて戦力として獲得した」と説明している。
巨人の中田獲得に際し、8月20日には中田は東京都内の巨人の球団事務所で会見を行い、「今回、自分がやったことは愚かな行為だった。皆さんに迷惑をかけてしまったことを反省している。すみませんでした」と反省のことばを述べた。
また、巨人への移籍について、「正直はじめは何も考えられなかった。今は感謝しかない。本当にありがたいと思っている。こうやってチャンスを頂けたその期待を絶対に裏切ってはいけない。いちから見つめ直してしっかりやっていきたい」と話した。背番号は10番となった。
中田を擁護のボクシング村田にも飛び火
すべてが丸く収まったかのように思われるが、トレード前に謝罪会見も一切開かなかった、日本ハムの球団としての対応はお粗末だったと指摘が上がっている。また、ある球団で出場停止処分を受けたにも拘わらず、他の球団から助けられ、そこではなんのお咎めもなく即一軍でプレーできる、という構図にも疑問を抱く人は少なくなかったようだ。
そんな世間の声を聞いてか、プロボクシングの村田諒太は8月25日に自身のインスタグラムで、中田が打席に立つ写真を公開し、「中田翔選手。打席に立つだけで雰囲気の出る類稀な選手。世の中では罰を与えろとか言う輩もいるみたいだが、罰ばっかり与えて面白い人間を消すのはやめようよ」とメッセージを綴った。
すると、コメント欄には批判が殺到。「暴力行為は事実。社会人としてなんらかのケジメをつけるのは当たり前」という意味合いのものが多かったようだ。
村田は改めて28日、バクワン・シュリ・ラジニーシ著の「愛の錬金術」を紹介。「精神分析というビジネスは、耳を傾けるということで成り立っている」と精神病の患者と病院の先生のやり取りを一部抜粋した。ここには、3日前に投稿した中田翔への言及は一切なかったが、それに付随した内容だと思ったユーザーも少なくなかったようだ。
もしこれが中田の一件を踏まえての引用だとしたら、村田が指摘したかったのは、要約すれば、「有名人と言われる人を攻撃することで、自分の意見も耳を傾けてもらえて、それなりの支持を得て、自分は価値の有る人間なんだと思いがちだけど、本当に人生に満足している人はそんなことに時間を費やさない」ということだろうか。
アスリート界で随一とも言われる読書家の村田諒太。彼の言うことはもっともだが、今回の件で世間の人が納得がいかないのは、「暴力を起こした中田がお咎めもなく、反省する時間も、自分の行動も見つめ直す時間もないままに、他のチームでもうプレーできている」ということがメインであるため、村田の主張とは若干方向性が違うようにも見受けられる。
村田は「罰ばかり与えるのはやめて、再起に期待しよう」と言っているわけだが、そもそも世間の目から見れば、「中田はまだなんの罰どころか反省する時間すらまともに与えられていない」ということなのではないだろうか。
どちらの主張も筋が通っているだけに、相容れるのは難しいだろう。村田の主張が人々の心に届くことはあるだろうか。