小太りの体型でキレのあるダンスをネタにしていた、お笑い芸人・芋洗坂係長(いもあらいざか かかりちょう)を覚えておいでだろうか?芋洗坂係長が大ブレイクして、かれこれ10年ほどの時が経った。
もともと彼はお笑い芸人一辺倒だったわけではないので、メディアで見なくなったこと自体は彼のキャリアに傷をつけないのだが、どうやら深刻な病と闘っているようだ。それがタイトルにもある、睡眠障害である。
一部では「死亡説」など囁かれていた彼だが、実際には存命である。芋洗い坂係長の現在と、彼が苦しめられている睡眠障害の実態に迫っていこう。
もともとはダンサー!キレのある肥満会社員キャラ
芋洗坂係長の本名は、小浦一優(こうら かずまさ)。1967年福岡県の生まれである。高校時代からダンスチームを結成し、活動していた。彼のキレのあるダンスはここから始まったようだ。
高校卒業後は、歌番組で田原俊彦や中森明菜のバックダンサーを務めるなどした。高校から始めたダンスを生業にしてしまったので、もともとセンスがあったのだろう。ダンサーとしても、また自分の劇団「PROJECT TENSION」を結成するなどしても活動した。
東京に上京してきた時の一番の仕事は、ザ・ベストテンに出演して「TATTOO」を歌っている中森明菜のバックダンサーであったというエピソードももっている。
1988年には、同じ福岡県出身の田口浩正とお笑いコンビ「テンション」を結成。レギュラー出演する番組もあったが、1993年に相方の田口が役者を志すようになり、活動休止に至った(解散ではないとしている)。
ピン芸人としては、肥満体型の会社員というキャラクターで、『R-1ぐらんぷり2008』に出場した際に名乗った“芋洗坂係長”として替え歌などを披露することが多いために、世間では「芋洗坂係長」の名前で知られていることのほうが多いだろう。
R-1ぐらんぷり2008では優勝したなだぎ武に2点差で敗れ2位となったが、これをきっかけに知名度が一気に上がり、大ブレイクすることとなった。
いびきがうるさい!すれちがい妻とも離婚
そんな彼の見た目の特徴はというと、でっぷりとした愛らしい体型に、人を敵に回さない優しそうな表情、黒縁めがねの穏やかな男性。しかし、テレビでの明るい姿の裏で、20年以上にもわたって「睡眠時無呼吸症候群」の症状に悩まされてきたというのだ。
現在は53歳の彼だが、自分の睡眠が明らかに異様だな、と気付いたのは35歳くらいの頃だったという。
「ある日、地方で数日がかりの仕事があり、7~8人で旅館の同じ部屋に泊まることになったんです。自分はいびきがうるさいという自覚があったので“迷惑をかけるかもしれないよ”と言っておいた」
「ところが、夜中にまぶしいな、と思って目を開けたところ、部屋中のみんなが私を囲んで睨んでいるんです。“いびき?”と聞くと、“そうだよ”。一人が“鼻をちょん切るぞ”と言って、部屋から全員が出て行っちゃった。後で聞くと、グゴゴゴゴって怪獣が吠えるような音だったとか。迷惑かけちゃったなと思いまして……」
振り返ればその10年ほど前から、自身の「眠り」にまつわる違和感はあったという。彼は25歳で最初の結婚をしているが、当初は奥さんと子どもと一緒の部屋で寝ていたところ、いびきがうるさいからという理由で芋洗い坂係長だけ一人、居間で寝るようになった。
そうなると、徐々に気持ちもすれ違っていくようになり、いずれ夫婦関係もおかしくなり、5年後に当時の妻に出て行かれてしまったのだという。「いびきが離婚の原因のひとつと言ってもいいと思う」と本人は振り返る。
妻と離婚し、独り身になってからは当時所属していた劇団の座長と暮らしていたが、やはりいびきで怒られたとか。稽古中に突然寝てしまったりすることもあったそうで、「つかれているんだな」と自身を納得させていたのだという。
一晩で70回以上仮死に!重度の睡眠障害
しかし、そんな彼に決定的な出来事が起こる。稽古に向かうために、バイクを運転していた際、交差点で信号待ちをしている時に、何と眠ってしまったのだという。信号が変わっても起きないということで、後ろに乗っていた友達にパコンと頭を叩かれて気が付き、事なきを得たというが、それで怖くなって大学病院に診察に行った。
簡易検査キットを渡され、自宅で一晩、睡眠時の呼吸の回数や時間などを測った。そこで「睡眠時無呼吸症候群」の診断をくだされたのだという。
芋洗坂係長の場合、なんと一晩で70回以上も仮死状態になっており、1時間で、無呼吸、つまり10秒間以上息が止まっている状態が100回以上はあったのだそうだ。血液中の酸素飽和度が落ちてしまい、常にひどい酸欠に悩まされている状態だったのだという。
睡眠時無呼吸症候群の主たる要因は、往々にして肥満である。芋洗坂係長も、若くして状況した際には50キロ台だった体重が、この診断を受けた際には100キロ超にまでなっていた。「いつ死んでもおかしくなかった」「お医者さんからは“痩せなさい”と言われましたけど、私の場合は、この体形自体が“芸風”ですから。無理ですよね」と振り返る。
治療を行い、現在は症状は劇的に改善しているとのことだ。お笑い芸人としてテレビで見ることは当時よりも少なくなったが、今も俳優としてドラマ出演していたり、舞台に出演したり、母の経営する飲食店を手伝ったり、TikTokを更新したりと大忙しの日々を送っているようす。
彼の場合はしかるべきタイミングで睡眠時無呼吸症候群の診断がくだされ、治療を受けられたことで改善に繋がったが、そうでなかったら話は違ったことだろう。自分の睡眠の質に疑問をもっている方は、この際に病院で一度診察を受けてみてはいかがだろうか。